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蕎麦屋酒

古川修

蕎麦屋で飲む酒は格別であり、居酒屋とは一線を画する。シンプルな酒肴で酒を楽しみ、最後に蕎麦をたぐる。・・・(中略) 蕎麦屋は元来庶民が仕事を終えて帰宅する途中で、さっと酒を楽しむための憩いの場所であった。すなわち、蕎麦屋で酒を飲むということは、日本の歴史、伝統を飲んでいることになり、旨くて当然なのである。(「はじめに」より)

そろそろ新蕎麦の季節、日本酒がひときわ美味しく感じられる季節である。本屋の店先にも、「サライ」や「一個人」をはじめ、蕎麦特集を組む雑誌やムック類が並び始めた。このところ蕎麦屋酒とも無縁の無粋な暮らしを送っているが、あまりの忙しさにそろそろ頭も体も悲鳴を上げつつあるので、何とか東京出張の合間にでも、昼下がりの蕎麦屋酒を楽しむ心のゆとりを持ちたいものだ。ああ、旨い蕎麦が食いたい~!
裏表紙のプロフィールによると、現在芝浦工大教授である著者は、元ホンダの開発責任者で、自動車業界では知らぬ者のない美食家とのこと。本格的な栽培まで手がける程蕎麦にのめり込んでいる一方、日本酒について書かれた一章を読んでも、その知識と造詣の深さが生半可なものではないことが分かる。スノッブで気障な爺の蘊蓄本かと高を括っていたが、なかなかどうして、読み応えのある楽しい一冊であった。

蕎麦切りをすするときの香りはほんの僅かな上品なもので、香りが独立して存在するものではなく、味とバランスして感じられる。利き酒でいう立ち香ではなく、含み香がするのである。だから、蕎麦を食べる前にいくら鼻で嗅いでも、強く香ることはない。僅かな香りが漂うだけである。(第三章「蕎麦屋のロードマップ」より)

[2004年8月28日] この日の感想・書評へ→

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