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翻訳夜話2 サリンジャー戦記

村上春樹/柴田元幸

そんなに『キャッチャー』という小説にはまったというわけではないんです。来るということでいえば、カポーティなんかのほうがずっと来ました。でも『キャッチャー』って、再読していないわりには、そして「そんなに来なかったよ」とか、しらっと言っているわりには、不思議に心に深く強く残っているんです。(対話1「ホールデンはサリンジャーなのか?」より)

「ライ麦畑でつかまえて」は遠い昔に読んだ記憶があるが、世間の評価程は心に響かなかった。いわゆる文学における一般的な“名作”群とは違い、学校の図書館から閉め出されたり「有害図書」に指定されたりという点に大いに興味を惹かれて読んだのだが、結局この物語のどこが反社会的なのか、正直よく分からなかった。
この「サリンジャー戦記」は、こんな私の如き文学的読解力に乏しい読み手にとっては、大いに参考になるサブテキストである。サリンジャーが歩んできた人生や様々な逸話、物語の時代的背景、文体の特徴と解説、「キャッチャー」の主題の一つでもある“イノセンス”についてetc.、「なるほど文学作品というのは、ストーリーを追うだけでなくこんな風に読み解く楽しみもあるのだなあ」と感心してしまった。
こうなれば本編を読まない訳にはいかない。幸い娘が持っているので借りることにしよう。

この本を読んで、切実にひしひしと何かを感じるのは、そういう意味では成熟した愛を抱えきれないでいる人なんじゃないかなと。あるいは、そういう地点に既に行ってしまって、今現在、現実的に責任を取らされている人たちが、あれこれと感じながら読んでいるのか。(対話2「『キャッチャー』は謎に満ちている」より)

[2006年8月27日] この日の感想・書評へ→

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