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栗林酒造第十七号(秋田)

純米吟醸K6一度火入れ
1800ml/2730円

足立市場「武寿司」での二杯目。「先程のと比べてお好みは?」と店主に尋ねられたので、もう少し辛口でお願いしたところ、この「栗林酒造第十七号」が登場した。「K6一度火入れ」とは6号酵母で仕込み、貯蔵前に一度加熱したもの(いわゆる生詰)。第十七号はタンクのNo.で、いかにも限定品といった佇まいだ。一杯目の「美和桜」より中辛でスッキリしているが、きちんと旨味もある。酒の味を愉しみつつも魚を主役に据えるなら、やはりこれ位がちょうど良いかも。蔵元の栗林酒造店は明治7年の創業で、主銘柄は「春霞」。
おまかせ握りの方は、下味を付けた蛤(軍艦)、この店の名物炙りカマス、鱈の白子(軍艦)、ツメではなく軽く炙って塩を振った穴子。

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さむらいの巣

池波正太郎

「その笄には、わしの・・・」
と、五兵衛は嬉しげな微笑を見せ、
「世の中の善も悪も知らなんだころの、生気にみちみちておったころの、わしの思いがこめられておるのじゃ。わしの一生は、あのころをもって、すでに終わっていたのやも知れぬなあ・・・」
「と、申されますと・・・?」
「訊くな。言わぬ」
降るような茅蜩の声の中に、やがて、五兵衛の呼吸がとまった。 (「さむらいの巣」より)

短編小説、人物史伝、歴史紀行、インタビュー等7編を詰め込んだ少々まとまりのない一冊だが、興味深いのは表題作の短編「さむらいの巣」である。主人公の徳山五兵衛は、鬼平同様火付盗賊改方の長官を務めた実在の人物で、妾腹故に屈折した少年期を過ごし、本所を舞台にさんざん放蕩三昧を重ねた末に家督を継ぎ、壮年期に盗賊退治で辣腕を振るった。まさに長谷川平蔵とぴったり重なる人物像である。そして本作の初出は「鬼平犯科帳」が世に出る前の昭和38年であり、ここに描かれた徳山五兵衛は、ある意味鬼平像の原型であったと言えるかも知れない。
但し一方で著者は、既に4年前の昭和34年に、同じ徳山五兵衛を題材にしながら全く主題が異なる中編「秘図」を発表。さらに昭和50〜52年には、この「秘図」の方を基にした長編「おとこの秘図」を週刊新潮に連載している。この二作での五兵衛は、峻厳な火盗改長官でありながら密かに春画作りにふける異能の人として描かれ、その人物像は鬼平と重なって来ない。「鬼平犯科帳」を遠景に置いて「秘図」「さむらいの巣」「おとこの秘図」を発表順に眺めると、徳山五兵衛の人物像の変遷が透けて見える様だ。

−『鬼平犯科帳』の中でご自身で意図して、小説の底に流れているのはこういうものだ、というものはありませんでしょうか?
池波 ぼくが書いている『鬼平犯科帳』は捕物帳じゃないんです。もちろん捕物もありますが、それよりも泥棒の世界、そして捕まえる者たち−同心、与力、平蔵たち、そういう人間どうしの色々な関わり合いというものを、読む方々が自分の色々な社会に置きかえて読んで下さるなら、そうして頂いた方がありがたいですね。(「実録・鬼平犯科帳」より)

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