Sake Honpo Style Standard Blog Style

ソウル・コレクター

ジェフリー・ディーヴァー著/池田真紀子訳

ライムは胸の高鳴りを覚えていた。捜査はどうやら一歩前進しかけている。「五二二号も、被害者に関する知識を使って警戒を解かせ、接近しているな。濡れ衣を着せる相手の生活も、自宅にあるのと同じ商品を使って偽の証拠をでっち上げられる程度まで知っている」
「それに」セリットーが付け加える。「事件発生当時、偽の犯人候補がどこにいるはずかまで、正確に把握している。アリバイが証明できないように」(第二部「トランザクション」14より)

リンカーン・ライムシリーズの最新作。今度の敵は、個人情報を操作し証拠を捏造して無実の他人に濡れ衣を着せ、自らは身を安全圏に置きながら快楽殺人を繰り返すという卑劣漢である。この“全知全能の邪神”の如き犯罪者を追い詰めてゆくメインストーリーに、前作で捕らえ損なった殺し屋「ウォッチメーカー」が暗躍する同時進行の事件や、知られざる青春時代のライムの記憶が絡み合い、頁を捲る暇さえもどかしい程の面白さで物語が展開される。
それにしても、住所、職歴、身体データ等の基本事項から、趣味・嗜好、交友関係、保有資産や購買履歴まで、自分に関する全情報を秘密裡に収集している組織があり、そのデータが悪用されて自分が破滅に追い込まれたとしたら…。生身の自分の人間性よりも、自分に関する無機的なデータの集積の方が真実味を帯びる怖さが心をよぎった。

伯父がいまも生きていたら、ライムのラボに悠然と入ってきて、甥の動かない体には一瞥もくれず、まっすぐにガスクロマトグラフの機会を指さして訊くだろう。 「こんな時間にまだ分析か?」そして証拠物件一覧表の前に腰を落ち着け、五二二号事件の捜査についてあれこれ質問を始めるだろう。
それはそうかもしれないな。しかし、この人物がそのような行為をしたと考えることに論理的な瑕疵はないか?(第二部「トランザクション」17より)

[2010年5月28日] この日の感想・書評へ→

このエントリーのトラックバックURL:

1005_09b.gif