須藤孝光
「あなたの英語だってそう聞き苦しくはありません。もう少し勉強なされば一流になりますよ」 ホイットニーの顔から、さっと血の気が引いた。二重にたるんだ顎が震えている。 「敗者であることを忘れんようにな」 「いま申しあげたとおり、私の任務は双方の連絡をとることです。そのためには立場を中立にしておかねばなりません。したがって、ことさら敗者の側に立つつもりもありません。もとより勝者の側には立てるはずもありませんが…」(「だれだ?」より)
戦後日本のブラックボックスとも云うべき占領期に光を当て、憲法改正問題に関する白洲次郎の一連の言動をドキュメントノベル風に描いた作品。吉田茂とのやりとりをはじめ、随所で交わされる会話の語り口にリアリティがあり、評伝の類とはまた違った趣がある。 「新憲法誕生の生き証人」と言われながらも、彼は生涯多くを語らず、保管していた多くの資料も、「墓場まで持っていく」と言いながら死の直前に燃してしまった。そんな中、GHQによる憲法草案の提示(1946/2/13)から、修正作業を経て日本国憲法草案が閣議で承認されるまでの動きを書き残した「白洲手記」は彼による数少ない一次資料で、全編漢字とカタカナで記されているが、唯一「今に見ていろ」の言葉だけが平仮名であった。「憲法は本来自分達の手で作られるべきものだった」という悔しさと抑えた憤りが、この六文字には込められているのだろう。
雨に打たれながら淡々と祝辞を述べる吉田を見るうち、次郎はいたたまれぬ気分にさいなまれた。昨年三月、手記につづった「涙」と、絶え間なく頬を打つ雨粒が重なる。 ー借りものの国旗で、借りものの憲法を祝うなんてまっぴらだ。 片手をポケットにつっこむと、次郎は吉田の演説が終わるのも待たずに会場を後にした。(「エピローグ」より)
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1946 白洲次郎と日本国憲法
須藤孝光
戦後日本のブラックボックスとも云うべき占領期に光を当て、憲法改正問題に関する白洲次郎の一連の言動をドキュメントノベル風に描いた作品。吉田茂とのやりとりをはじめ、随所で交わされる会話の語り口にリアリティがあり、評伝の類とはまた違った趣がある。
「新憲法誕生の生き証人」と言われながらも、彼は生涯多くを語らず、保管していた多くの資料も、「墓場まで持っていく」と言いながら死の直前に燃してしまった。そんな中、GHQによる憲法草案の提示(1946/2/13)から、修正作業を経て日本国憲法草案が閣議で承認されるまでの動きを書き残した「白洲手記」は彼による数少ない一次資料で、全編漢字とカタカナで記されているが、唯一「今に見ていろ」の言葉だけが平仮名であった。「憲法は本来自分達の手で作られるべきものだった」という悔しさと抑えた憤りが、この六文字には込められているのだろう。
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