いくよ、二郎さん はいな、欽ちゃん 山中伊知郎
もし欽一が下宿にいなかったら、坂上はたぶんまた再び電話をかけたりしなかったろう。元来、欽一と親しかったわけではない。坂上がフッと懐かしくなってかけてしまった、ほんの「出来心」だったからだ。 人間の力の及ばない世界の誰かが、二人を再会させるためにかけさせたとした思えない一本の電話。 あるいは、いつも欽一がお祈りをしていた夜空の星が、二人をもう一度引き合わせてくれたのかもしれない。(第七章「運命的再会」より)
思えば、コント55号は相当に斬新だった。漫才でも喜劇でもない「コント」という新しいお笑いの様式もさることながら、テレビ画面の枠をはみ出すパワフルな狂気と、「野球拳」に代表される確信犯的な俗っぽさが、理屈抜きで子供心を鷲づかみにした(そのぶん世の親たちには大いに顰蹙を買って嫌われたが…)。 やがてブームは沈静化し、欽ちゃんは一時の低迷を経て「欽どん」「欽どこ」など、家族で安心して楽しめるお笑いへと芸風を昇華。二郎さんは「夜明けの刑事」など演技の世界へ活躍の場を移したが、一定世代以上の人にとって、永遠に二人は「コント55号」の欽ちゃんと二郎さんである。そんな二人が浅草時代は互いに反目していたこと、二人が世に出るために事務所社長の人一倍の熱意と努力があったこと等、本書を読んで初めて知った逸話も多い。会話や描写が妙に青臭かったりもするが、それも「昭和」の空気感なのかなあ〜と思わなくもない。
いくら動きが身上の浅草のコメディでも、こんなに派手なアクションを次から次へと繰り広げる人たちはかつていなかった。彼らのコントには湿った義理人情も、練り上げられた話術も、台本に基づいた緻密な計算もなかった。 あるのは狂ったままの状態で舞台を右へ左へ走り回る二人の男と、狂ったようにそれを笑い転げる観客たちだけだ。すべてはハプニングだった。(第八章「コント55号結成」より)
[2011年8月 5日] この日の感想・書評へ→
このエントリーのトラックバックURL:
[酒本舗TOP] [HOME]
Powered by Movable Type 3.17-ja
SAKE HOMPO The copyright of this chapter is reserved by Shunji Yu and freeist communications Any unauthorized reproduction of any of its content is prohibited.
小説コント55号
いくよ、二郎さん はいな、欽ちゃん
山中伊知郎
思えば、コント55号は相当に斬新だった。漫才でも喜劇でもない「コント」という新しいお笑いの様式もさることながら、テレビ画面の枠をはみ出すパワフルな狂気と、「野球拳」に代表される確信犯的な俗っぽさが、理屈抜きで子供心を鷲づかみにした(そのぶん世の親たちには大いに顰蹙を買って嫌われたが…)。
やがてブームは沈静化し、欽ちゃんは一時の低迷を経て「欽どん」「欽どこ」など、家族で安心して楽しめるお笑いへと芸風を昇華。二郎さんは「夜明けの刑事」など演技の世界へ活躍の場を移したが、一定世代以上の人にとって、永遠に二人は「コント55号」の欽ちゃんと二郎さんである。そんな二人が浅草時代は互いに反目していたこと、二人が世に出るために事務所社長の人一倍の熱意と努力があったこと等、本書を読んで初めて知った逸話も多い。会話や描写が妙に青臭かったりもするが、それも「昭和」の空気感なのかなあ〜と思わなくもない。
[2011年8月 5日] この日の感想・書評へ→
このエントリーのトラックバックURL: