龍馬の油断
幕末七人の侍
津本陽
座敷へ突然入ってこられたら、龍馬がピストルを手にとる余裕もなかったのは当然である。
撃剣家である坂本と中岡の名誉を守るため、善戦したと賞揚するいろいろの証言がある。
二十分も斬りあったという人もいたが、現場の状況から見て、通り魔のような練達者の太刀遣いであったことが分かる。 やはり龍馬と中岡は、自分の手練をたのみ油断していたのである。(「龍馬の油断」より)
出版社のPR文をそのまま記すと、「幕末維新の世にひと際光を放った七人の剣士たちの、それぞれの剣の道を枯淡の筆致で描く短篇集」ということだが、七人の内訳は坂本龍馬、陸奥宗光、勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟、吉田松陰、そして中村郁蔵である。
さて、私もこれまでかなり幕末絡みの小説や評伝・史書の類を読み漁ってきたが、中村郁蔵なる人物に関しては全く見覚えがない。本書(「武術の天性」)では、1967年12月7日に京都で起きた「天満屋事件」の際、龍馬暗殺の黒幕として襲撃された紀州藩用人・三浦久太郎を警護した凄腕の紀州藩士らしいが、 Googleで検索しても中村の名は出て来ない。ふと思い立ち、天満屋事件を描いた司馬遼太郎の短編「花屋町の襲撃」を読み返したが、やはりその名はない。龍馬と松陰、そして「幕末の三舟」という維新期の有名人の合間に、なぜ無名の人物をわざわざ取り上げたのか?そもそも中村郁蔵とは実在の人物だろうか? 内容以外の面で妙に興味を惹かれてしまった。
中村郁蔵の家中での評判はたいそうよかった。いつも機嫌がよく、人の顔を見れば笑っている。江戸に長くいたが紀州弁でかろやかにしゃべり、日頃気難しい奉行や目付などの年嵩の連中にも「郁さん、郁さん」と声をかけられ、人気があった。
郁蔵は剣術のほかに槍術、乗馬にも長じていた。宝蔵院流の十文字のタンポ槍を手にすると、師範役を相手に互角の勝負をした。相撲もつよい。(「武術の天性」より)


鯉川(山形)
純米吟醸美山錦中取り生酒
1800ml/2650円
庄内産の美山錦を使った純米吟醸の中取り生バージョン。精米歩合50%と実質的なスペックは純米大吟醸と同等である。味わいはフルーティーなスッキリ系だが、口に含むとほんのりスモーキーな風味が広がる。すっきりと穏やかで軽い風合いなので、食中酒としては抜群。蔵元は享保10年(1725)創業、亀の尾発祥の余目町にある鯉川酒造。蔵人平均年齢が20代と若さと活気あふれる蔵元である。肴は出し巻き玉子、ワタ入りの丸干しイカ、蓮根と海老のはさみ揚げなど。前回同様「麦太郎」にて。
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