あなたがいる場所
沢木耕太郎
彼女とバスで一緒になるのは毎日のことではない。村井は常に同じ時刻のバスに乗ったが、彼女の方がさほど正確ではなかったのだ。たとえ一緒になっても前の席に他の人が座ってしまうこともある。しかし、一週間に一度か二度は目の前のその席に座ることになった。そして、その日が晴れていると、彼女の髪に虹がかかるのだ。 虹のかかった彼女の髪は美しかった。あるとき、村井はそこに触れてみたいという思いを抱いている自分に気がついて愕然とした。(「虹の髪」より)
少年少女でも最後まで読み通せる分かりやすさ、を意識して書いたという著者初の短編小説集。様々な年代の男女を主人公に、9編の不条理に満ちた日常が描かれている。絶対に嘘をついてはいけないと母に教え込まれた小学生の男の子が、公園で寂しそうに佇んでいた小さな女の子と出会うことで知った「嘘の中の『真実』」。娘を学童保育の滑り台の事故で亡くした父親と、見知らぬ子供を助けたために片腕を失った男との邂逅…、一つひとつの話はさすがに読みやすく、それなりに深い。しかし沢木の書くノンフィクションやエッセイに思い入れの強い昔からのファンからすると、沢木自身の目線が消された虚構の小説世界に対し、どうしても違和感を感じざるを得ないのではないだろうか。近頃は小説を書くことに情熱を感じているようだが、やはり私は、事実の中から“一瞬の真実”を切り取る、沢木耕太郎の渾身のノンフィクションがまだまだ読みたい。
あの女子店員には、自分が孫にクリスマス・プレゼントを買う幸せな「おじいちゃん」に見えたのだ。もちろん、そういう年齢になっていることは間違いなかった。わずかに付き合いの残った学生時代の友人の中にも孫が生まれたことを嬉しそうに連絡してくるのがいる。しかし、自分は一生孫を持つことはないだろう。息子が一生子供にこの絵本を読んでやることがないように。 どこで間違ってしまったのだろう。いったい自分のどこが悪かったのだろう…。(「クリスマス・プレゼント」より)


美丈夫(高知)
純米酒
1800ml/2100円
美丈夫(びじょうふ)と読む。愛媛県産の松山三井を吟醸レベルの60%まで精米し、低温でゆっくりと醸した淡麗辛口の食中酒向き純米酒。フレッシュな酸味と膨らみのある旨味のバランスが良く、飲み飽きがしないタイプ。安芸郡田野町にある蔵元の濱川商店は明治38年創業。約五百石の少量生産でその80%以上が吟醸酒である。平成2年より元の主銘柄「濱の鶴」を「美丈夫」に変更した。肴は鶏の唐揚げ。中国出身の愛らしい若女将の店「おばんざい玲華」にて。
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