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妻に捧げた1778話

眉村卓

毎日短い話を書くにあたって、私が自分に課した制約のひとつに、どんな話であろうともどこかで必ず日常とつながっていること—というのがあった。この作業に対する私のスタンスを示すためであったが…その日常というものがこんな具合になってくると、よりどころが少しずつ変質して行かざるを得ない。私自身、そのことを感知していたけれども、だからといって、どうしようもない。私はこれまでの感覚で書きつづけた。というより、傾斜・歪みが生じていても、それはそのときどきの様相を映し出しているのだからいいではないか、と開き直るようになったのである。(「非常と日常」より)

ガンで余命1年と宣告された妻のため、せめて気持ちの明るくなるような話を書いて読んでもらおうと考え、作家の夫は毎日一話ずつショートストーリーを書き続けた。その数は何と5年間で1778話。SMAP草なぎ剛と竹内結子の主演で映画化され、ちょうど1年前に公開されたが、内容は実話である。本書には 1778話のうちの19話と各作品についての自己注釈、そして二人の出会いと結婚生活が本人の筆でまとめられており、神戸に向かう新幹線の中で一気に読み終えたが、ラスト3話当たりから文字が滲んで見えて、最終回の最後の一行で涙腺が決壊してしまった。何とも切ない一冊だ。
人生も半ばを超え、妻と一緒に過ごした日々の方が長くなった今。もし彼女が余命1年なんて宣告されたら…と我が身に置き換えるだけで正気を失いそうになる。きっと著者も、病床の妻を楽しませてあげたいという気持ちに加えて、壊れそうな自分自身の精神のバランスを保つために、お百度を踏むように「一日一話」の創作を自らに課したのだろう。

とうとう最終回になってしまいました。
きっと、迷惑していたことでしょう。
今日は、いまのあなたなら読める書き方をします。

いかがでしたか?
長い間、ありがとうございました。
また一緒に暮らしましょう。
(「一日一話の終わり 1778『最終回』」より)

[2012年1月29日] この日の感想・書評へ→

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